木目金を知る



<第27回> 杢目金屋収蔵木目金鐔「復元研究」

  2021年3月5日

杢目金屋代表の髙橋は毎年1点木目金作品の復元研究を行っています。2020年は江戸時代中後期に作られた鐔「銘 予州松山住正阿弥盛国」の復元制作を行いました。

復元した鐔は日本美術刀剣保存協会「2020年度現代刀職展」にて優秀賞に次ぐ努力賞を受賞、両国の刀剣博物館にて昨年11月に展示されました。

 
今回は髙橋代表の復元研究記録を元にその概要をご紹介します。
この鐔の特徴は何といってもその特徴的な模様です。現存する木目金の鐔において他に類を見ない「四角紋」が全面に施されています。
「銘 予州松山住正阿弥盛国」江戸時代中後期
 
刀を通す中央の穴の両脇にある櫃穴(ひつあな)は菊の葉の形になっており、鐔の表面に施された立体的な象嵌は菊を表現しています。これら具象文様との一見複雑な組み合わせにおいても、木目金の四角紋は主張しすぎることなく、あくまでも背景としての脇役でありながら、それでいて互いの美しさを引き立てる役割を担っていると言えます。
 
さてこの四角紋はどのように制作されているのでしょう。櫃穴などの金属の積層が露出しているところを観察すると、この鐔が赤銅、銅を交互に13枚と最後に厚みのある銅を一枚積層した14枚の積層であることがわかります。赤銅、銅の2種類によるシンプルな積層構造です。四角紋の再現は一見とてもシンプルな作業工程にみえましたが、実は大変繊細で丁寧な作業が必要でした。
まず毛彫り鏨(たがね)で十字に彫り、その後片きり鏨で逆四角錐に彫りすきます。この時点で最終的な文様として表出する積層枚数の深さまで彫り、鍛造をしながら平面に成形します。逆四角錐は丸状の彫りの形状と違い鍛造段階において上の層が下の層に被さってしまう現象が起きやすいため慎重に行う必要があります。模様が被さってしまった箇所は都度丁寧に再度彫りを入れながら平面へと成形する必要がありました。また模様彫りは、一定の割合で縮小した鐔型に彫り、最終的に平面に延ばした時に鐔と模様が同じ大きさになるようにしています。
 
1.トレースした模様をタガネで彫る

2.四角紋彫り

3.後で延ばすことを想定して小さい鐔型に彫っている

4.元の鐔の大きさまで圧延

5.鐔型の切り出し

6.表裏を張り合わせ完成

7.煮色着色

復元鐔

 
木目金の模様は色の異なる金属を何層にも重ね、彫りやねじりなどを加え平らに延ばすことを繰り返して作られます。この四角紋は、制作者である正阿弥盛国が木目金の模様が生まれるその偶然性をコントロールする確かな技術の持ち主であることを意味していると言えます。途中段階の彫りの微細な差異が最終的な四角紋様の表出に大きく影響を及ぼすこと、また象嵌、彫りの工程、仕上げの工程と完成まで幾度も加工を加える必要があり、それによって文様は確実に変化しつづけること、それらも考慮した上で、四角紋の配列や大きさのバランスに関して確かな構成力と計画的な作業を行えることが求められるからです。すべての工程を想定し作業するには多くの経験を必要としたはずであり、盛国が複数の木目金の制作をしていた可能性を物語っています。しかしながら、盛国の意図は四角紋と言う特殊な文様制作の技術力の誇示ではありません。その文様が彫りや象嵌などの景色として自然に溶け込んでいる点からわかるように、木目金はあくまで脇役として、表現したい鐔の世界観の演出としての背景として用いています。

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