幕末から明治にかけて来日した外国人が日本の芸術に魅了され、母国に多くの美術品を持ち帰り、後に博物館に寄贈されたものも多くあります。木目金の作品も世界的な博物館に収蔵されています。連載第10回から13回にかけてはロンドンの大英博物館とオックスフォード大学の博物館であるアッシュモレアン博物館の収蔵作品調査の様子についてご紹介しました。
今回はロンドンのビクトリア&アルバート博物館(V&A)の木目金作品のご紹介です。杢目金屋ではNPO法人日本杢目金研究所から「木目金の教科書」を刊行しています。
伝統技術「木目金」の歴史・文化・作品・技法など、体系的にひも解いた教科書的な書籍です。V&Aをはじめとした海外博物館に収蔵されている木目金作品も数多く掲載しており、今回の訪問でそれらの作品が実際に展示されているのを目の当たりにすることができた時は歓喜!!でした。
V&Aは1851年のロンドン万国博覧会の展示品をもとに、1852年に開館した国立博物館で、装飾美術とデザインを専門とし5000年に渡る世界各国の人類の創作遺物を収蔵しています。1909年に現在の立派な宮殿のような建物が竣工しています。
展示室は140室以上もありコレクションの質と内容の豊富さは世界屈指と言われ、大英博物館と同じく入場無料で公開されています。荘厳な建物に囲まれた中庭は子供たちが水遊びするなど憩いの場として親しまれています。
コレクションの内容ごとに展示室のデザインが異なっていて、宮殿のような室内を活かした銀食器の展示室や、
ヨーロッパの中世の豪華な装飾品をシックに展示した空間など、作品だけでなく展示空間そのものが楽しめます。
「Japan」の展示室は日本の建築のデザインを取り入れており、展示ケースの上部に欄間を思わせる装飾が施されています。
日本室の照明がとりわけ薄暗いのは作品の保護のためもありますが、陰影の美を尊ぶ日本を象徴してのことではないでしょうか。展示室では「茶道」「漆」「装身具」などのカテゴリー毎に江戸時代から明治、現代までの作品が展示されています。
そして「SAMURAI」のコーナーに多くの鐔や刀が展示されていました。
探してみると中央辺りにありました!高橋興次の銘入りのグリ彫りの鐔が、そして木目金の鐔も。
グリ彫りの鐔は興次作の同じような作品を杢目金研究所でも所蔵しています。グリ彫りは鐔工の高橋派が最も得意とした技術です。中でも興次の彫りは端整ながら肉置きもたっぷりしていて、堂々とした立体感があります。この連載「木目金を知る」の第1回で取り上げましたが「吉野川図鐔」に代表されるように、木目金を単なる文様を作る技術ではなくイメージを表現する手段にまで高めた興次。彼はグリ彫りの作り手としても右に出るものがいないと言えるほどの名手なのです。
木目金の鐔はシンプルな鉄の地金に木目金が象嵌されています。櫃孔(ひつあな)と呼ばれる本来は刀に添える笄(こうがい:髪を書き上げる道具)を通す穴の部分の他に、ひょうたん型や何の形でしょうか?細長い形状を木目金で象嵌しています。大ぶりな鐔の中に微妙なバランスで小さなアクセントを散りばめています。そのひょうきんな形とは裏腹に非常に手の込んだ木目金の複雑な文様が施されていて、当時の職人の洒落っ気が伺える作品です。
この他にも中央に展示されていた黒い鞘(さや)の大小揃いの刀の飾りは、深いグリ彫りの縁や栗型になっていて、すっきりとしたシンプルな艶黒を引き締めるデザイン性の高い作品として展示されていると思われました。
そして幕末ごろの工芸品を展示しているコーナーにありました、華やかな木目金の花瓶が。
「木目金の教科書」にはV&Aから提供されたこの花瓶の画像を掲載していますが、片方の面のみです。今回の訪問で初めて裏側の木目金の文様も見ることができました!
七宝や漆、螺鈿、金象嵌をあしらったとても華やかな装飾と木目金の文様が調和のとれた美しい作品です。
装飾芸術とデザイン性を視点に世界中の逸品が収集されているため、「Japan」展示室にある作品はどれも一つ一つが大変精巧で細かな装飾が施されていて、見ていて飽きることなく興味深い作品ばかりです。
刀の鐔を例にしても、当時作られた金属工芸技術作品の内、木目金で作られた作品は割合としては非常に少ないにもかかわらずV&Aの展示で取り上げられています。それはやはり木目金の美しさとその技術が表現する奥深さへの評価によるものではないかと今回改めて感じました。
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